情報・エレクトロニクス系部門

量子ナノエレクトロニクス

研究室概要

ポスターの展示。研究内容の紹介。

担当教員 / 研究室
黒山 和幸
開催場所

5月30日(金)

Ee棟 2階:Ee202

5月31日(土)

Ee棟 2階:Ee202

半導体などで形成されるナノ構造において現れる電子の量子力学的現象に関する研究を行っています。特に、そのような電子が光や電磁波と渾然一体となったハイブリッド量子状態に着目し、量子情報処理技術への応用へ向けた研究を行っています。

単一電子レベルで制御された光と物質の相互作用とその量子情報処理技術への応用
近年、半導体量子ドットに閉じ込めた電子やそのスピンを量子ビットとして活用することで、量子情報処理を行うことを目的とした研究開発が世界中で精力的に進められています。将来的に実用的な量子計算を行うためには、数百万個ほどの量子ビットが必要であると言われており、デバイスの拡張や集積化が喫緊の課題となっています。現状、可能性のあるアプローチの一つが、光と物質の相互作用を活用した拡張方法です。私たちの研究グループは、量子ドットに閉じ込めた電子とテラヘルツ帯域のメタマテリアル光共振器に閉じ込めた電磁波との間で実現する量子変換に関する基礎研究を行っています。これまでに量子ドットに閉じ込めた数個程度の電子とテラヘルツ光共振器との間で、光と物質の結合状態を形成することに成功しました。今後は、単一の電子と共振器の結合状態の制御や、スピン自由度と共振器の結合状態の実現へ向けた研究の展開を考えています。

極限的な光と物質の相互作用の物理の探求
光と物質が強く結合すると、「ポラリトン」と呼ばれる光と物質の両方の性質を持った結合量子状態を実現することができます。さらに、メタマテリアル光共振器などを使って、光や電磁波を微小な領域に閉じ込めて、電場強度を増大すると、光と物質の結合のエネルギーが、光の光子のエネルギーや物質の励起エネルギーに匹敵するほど大きくなります。このような結合状態は、超強結合状態と呼ばれ、物質中に様々な量子相転移現象を生じたり、全く新しい概念の物質制御技術を実現したりすることが期待されています。私たちの研究グループは、高品質の半導体基板を成長し、これをテラヘルツ帯域のメタマテリアル光共振器と組み合わせることで、半導体ナノ構造中の電子とテラヘルツ電磁波との間で超強結合状態を実現しました。今後は、超強結合状態のポラリトンで予想されている新奇量子相転移現象を開拓する実験的研究を展開していきます。

半導体超格子構造に基づくテラヘルツ電磁波発振器の研究
半導体超格子は、1970年に江崎らによって提案されたもので、異種の半導体材料をナノメートルオーダーで周期的に積層した1次元人工格子です。周期ポテンシャルの中では、直流電界を印加すると電子が振動的なトンネル効果(ブロッホ振動)を示すと言う著しい特徴があります。江崎らは、超格子中電子のブロッホ周波数がTHz帯域に位置することにも着目し、この現象を用いたTHzブロッホ発振素子も同時に提案しました。しかし、発振素子として利用するには、超格子が電磁波に対して利得(ブロッホ利得)を持つ必要があり、その存在を実験的に検証することは非常に困難でした。この問題に対し、平川一彦教授らが時間領域THz分光法により半導体超格子中の伝導ダイナミクスやブロッホ利得を詳しく調べ、発振可能な利得を有していることを実験的に明らかにしました。
 我々はこれまでに、超格子構造がブロッホ振動の利得を決定づける要因である電子の緩和機構にどのように関係しているかを詳しく調べ、将来のブロッホ発振素子の利得向上につながる超格子構造の設計指針を得ることができました。現在は、直流電界に加えてTHz帯の交流電界を超格子に印加することで電気伝導特性を変調し、ブロッホ発振素子の実現を妨げてきた高電界ドメインの問題を解決することで、提案から50年以上が経過したブロッホ発振素子を実現する研究を進めています。