物質・環境系部門

分子の「動き」を活かして創る高機能ポリマー

  • (9) 産業と技術革新の基盤をつくろう

  • (12) つくる責任 つかう責任

  • (14) 海の豊かさを守ろう

研究室概要

一見止まっているように見える材料の中でも、分子は刻一刻と動いています。そうした分子の「動き」を活かした材料設計に基づいた、自己修復性や強靭化をもつポリマー材料に関する研究を紹介します。Fe203前にて研究紹介(ポスター)を随時行っておりますのでお気軽にお越しください!

担当教員 / 研究室
吉江 尚子

お知らせ

どんな研究をしているの?

新しい性能の良い「強い」ポリマー材料を作ったり、「強く」するための新しい材料設計のしかたを開発する研究をしています。

ポリマーって何?

皆さんも言葉を聞いたことはあるかもしれません。ポリマーとは、たくさんの原子が長くつながってできた、鎖状の分子のことです。

私たちの身の回りにはたくさんポリマー材料があります。紙、布(繊維)、ポリ袋、弁当の容器、ゴム、電線の被覆、スマホの画面保護フィルム・・・これらはすべて主にポリマーからできています。そもそも、私たちの体をつくっているタンパク質や、遺伝情報を担うDNAもポリマーです。

これらの材料を見てみると、金属やセラミックスなどと比べると、どちらかといえば柔らかく、しなやかなものが多いことに気づきます。多くのポリマーは柔軟な鎖状のかたちをしているので、加工がしやすかったり、形を変えやすいという特徴があります。

どうしたらポリマー材料を強くできるの?

ポリマー材料は私たちの生活の重要な場面でよく使われているので、簡単に壊れてしまっては困ります。材料を壊れにくくすることは、材料の寿命を長くするので、省資源化や環境負荷を減らすことにもつながります。

ポリマー材料を壊れにくくする方法はいくつかあります。私たちの研究室では、主に「動的結合」という特殊な結合を材料に組み込む方法を研究しています。

動的結合とは、通常のポリマーを構成している化学結合(共有結合)よりも弱く、切れても元に戻るような結合のことです。例えば水素結合がその代表格です。ポリマー材料を構成する化学結合の一部を、この動的結合で置き換えると、どうなるでしょうか?一見、結合を弱くしてしまうので、壊れやすくなるような気がします。しかし、通常の共有結合のかわりに動的結合が先に壊れてくれるので、かえって材料全体は壊れにくくなるのです。また、動的結合は切れてもまた元通り結合できますから、そっとしておけば材料は元通りになります。場合によっては、いったん材料に傷ができてしまっても、動的結合が再び作られることによってひとりでに傷が治る「自己修復」という機能を付与することもできます。

私たちの研究室では、ポリマーや動的結合の「動き」を活かして、優れたポリマー材料を開発する研究に取り組んでいます。

もっと詳しく?

ここからは、より踏み込んだ研究内容を知りたい方向けの研究紹介です。

自然界にヒントを得たタフなエラストマー

イガイ(ムール貝)は、その身体を岩に固定するために強靱な足糸を持っています。我々はこの足糸の中に存在する動的結合の疎密による多相構造を模倣することで、極めて高いタフネスと疲労回復性をもつ材料を開発しました。

「柔軟な」水素結合を用いた自己修復性ポリマー

私たちは、水や穏やかな加熱のような身近に多く存在する刺激をトリガーとして自己修復する様々なポリマーを開発してきました。通常の湿度環境下で自発的に修復する材料も含まれます。また、最近、私たちはタフな自己修復性ポリマーの開発に、二つの-OHが近接したジオール基が有効であることを見出しました。極めてシンプルな分子モチーフであるジオール基をポリマー鎖の様々な部位に導入して、新しい材料の開発を進めていきます。

高剛性・高耐水性有機/無機ナノハイブリッド

貝殻の内側に形成される真珠層は板状無機物と有機ポリマーが規則的に積層した有機/無機ナノハイブリッドであり、極めて高い剛性と低い物質透過性が特徴です。しかし、真珠層を人工的に模倣した材料は、無機物の親水性により水や湿気に弱いという欠点がありました。我々は無機物表面の疎水化とその場重合により、高剛性かつ高耐水性な有機/無機ナノハイブリッドを開発しました。


吉江尚子/吉江研究室